投資信託で利益が出た場合は、定められた割合で税金が発生します。
国は資産運用の重要性を解きますが、課税システムや優遇制度までは周知してくれません、投資家が自主的に税金について学ばなければ、納税により思わぬ損失を出してしまうことすら考えられます。
とはいえ「税金の仕組みは複雑だから」と身構える必要はありません。
押さえるべき基本はごく単純で、税金を安くするコツもシンプルです。この記事にざっと目を通すだけで、節税による5~10年単位での運用効率アップを狙えますよ。
投資信託で税金が発生するタイミングとは
課税されるのは、投資信託の購入~売却までの下記3つのタイミングです。
【投資信託で税金が発生するタイミング】
- 分配金をもらったとき
- 売却or解約したとき(譲渡益)
- 運用期間が終了したとき(償還益)
※カッコ内は、発生した利益の「税法上の区分(法律で表現する際の名称)」を示しています。
投資信託はその決算回数に応じ、年1回~12回のペースで分配金をもらえることがあります。基準価額の上下に応じて投資家の判断で売却したり、ファンドの運用期間が終了して償還されたりするタイミングでも、現金による利益が発生します。
これらのタイミングを投資用語で「利益確定」と呼びます。利益確定と同時に税金が発生するため、手元に運用成果がほとんど残らない可能性を考えて注意しなければなりません。
投資信託の課税方式&税率は?
国が指定する課税方式には2つあり、投資信託には原則「申告分離課税」(税率は一律20.315%)が適用されます。
配当控除(税制優遇のひとつ)を使った場合に限り「総合課税」(税率5%~45%)となります。
申告分離課税※とは?
株式の配当金など、運用中の資産から得た利益に対する課税方式です。税率が一律であること・損益通算という申告方法を活用して節税できるのがメリットです。
総合課税とは?
給与収入を含む所得全体に対する課税方式です。累進課税とも呼ばれ、収入に応じて税率も低くなること・配当控除を使って税額を安くできるのがメリットです。
※申告分離課税について…証券会社が源泉徴収(あらかじめ収支から税額を控除してくれること)を行っている場合は「源泉分離課税」と呼びます。
投資信託の種類ごとに課税方式が違う
課税方式を決めるにあたって、税法では投資信託を2種類に分類しています。
配当控除を使えるのは、上場株式またはREITを運用資産に含めている「公募株式投資信託」に限ります。
【公募株式投資信託とは?】
運用資産に上場株式等が含まれているファンド。
分配金は「配当所得」として扱われるため、株式を自分で運用する場合と同様に配当控除を適用できる。
→株式カテゴリーまたは安定&バランス型ファンドが該当。
もう一方の債券やコールローンのみで運用しているものを「公社債投資信託」と呼び、その分配金には配当控除は適用できません。従って、公社債投資信託しか運用していない場合の課税方式は、かならず申告分離課税となります。
【公社債投資信託とは?】
運用資産に上場株式等を含まないファンド。
分配金は「利子所得」として扱われるため、配当控除は適用できない。その代わり、損失分の翌年繰り越し・他口座との合算(損益通算)が可能。
→債券カテゴリーファンドが該当。
【投資信託の種類別】課税方式&税率まとめ
投資信託の種類を踏まえて課税方式・税率をまとめると、次の表の通りです。
投資信託の課税方法 | ||
---|---|---|
課税対象\投資信託の種類 | 公募株式投資信託 | 公社債投資信託 |
分配金をもらったとき | 申告分離課税(20.315%) or 総合課税(〇%~〇%) |
申告分離課税(20.315%) |
売却or解約したとき
(売却益) |
申告分離課税(20.315%) | 申告分離課税(20.315%) |
運用期間が終了したとき(償還益) | 申告分離課税(20.315%) | 申告分離課税(20.315%) |
基本は「申告分離課税」ですが、公募株式投資信託の分配金に対して配当控除を適用する場合のみ「総合課税」となります。
実際の投資信託の運用では、投資益の大半を分配金が占めます。株式カテゴリーには高配当ファンドが多いことも考慮しなければなりません。所得額に応じて「申告分離課税or配当控除を使った上での総合課税のどちらがお得か」を考える必要があります。
分配金は非課税扱いになることもある
投資信託は「ある時点の基準価額+分配金 < 購入時の価格」という状態になってしまい、含み損が出るリスクを含んでいます。
こんな場合でも、納税による損失拡大を心配しすぎる必要はありません。購入時の価格を下回ってしまった分配金部分は、非課税扱いとなるからです。
「普通分配金」と「元本払戻金」の違い
投資信託の税計算は、購入時の基準価額(個別元本)がもととなります。
分配金が発生すると、個別元本を上回った部分を「普通分配金」・下回った部分を「元本払戻金(特別分配金)」と区別します。
普通分配金には課税されますが、元本払戻金には税金がかかりません。呼び名の通り、投資家の出資分が単に払い戻されているだけと解釈されるからです。
配当の一部を元本払戻金として非課税とするルールは、投資信託にしか設けられていません。自分で銘柄分析して株式や債券を運用する場合とは異なり、納税による実質利回りの低下を軽減することが出来ます。
確定申告は「特定口座(源泉徴収あり)」なら不要
投資信託の税金は、原則として確定申告を行った上でまとめて支払います。
確定申告シーズンは毎年2/15~3/15の間で、前年1月~12月までの収支を自力で計算して税務署に申し出なければなりません。
上手く計算できず受付期間内に申告できなかったり、申告そのものを忘れてしまったりすると、最大50%の重加算税がペナルティとして発生します。
「特定口座」なら収支計算不要!簡単に確定申告できる
証券口座の種類が「特定口座」の場合、自分で収支計算する必要はありません。証券会社が1年分の取引をまとめて計算し、確定申告書に書くべき金額を掲載した「年間取引報告書」を発行してくれます。
さらに、特定口座なら源泉徴収の有無も指定しておくことが出来ます。
【口座種類ごとの違い】
一般口座:自分で収支計算して確定申告する必要がある。
特定口座(源泉徴収なし):証券会社が収支計算してくれるが、確定申告は自分で手続きしなければならない。
特定口座(源泉徴収あり):証券会社が収支計算+税控除を行ってくれるので、確定申告は不要。
NISA制度(後述)の非課税枠内で運用する予定であれば「特定口座(源泉徴収あり)」で問題ありません。
税金が発生する場合は、確定申告によって節税できる可能性があります(後述)。源泉徴収なしを指定し、発行された年間取引報告書をもとに申告書を作成しましょう。
【節税のコツ1】確定申告する
先に少し触れた「損益通算」「配当控除」といった各税制優遇は、自分で確定申告した場合のみ適用可能です。それぞれ課税方式が異なるため、適用できるのはどちらか一方のみです。
【損益通算とは?】課税方式を申告分離課税とし、損失分を翌年に繰り越して利益を相殺できる申告方法。証券口座間の通算も可能。
【配当控除とは?】
課税方式を総合課税とし、算定された税額から配当所得の5%または10%(住民税は1.4%または2.8%)を差し引いてもらうことのできる制度。
※所得税に対する配当控除
課税所得1,000万円以下 … 所得税控除率 10%(住民税は2.8%)
課税所得1,000万円超 … 所得税控除率 5%(住民税は1.4%)
税制優遇はどちらを適用すべき?目安は「所得額695万円」
公募株式投資信託を持っている人が注意しなければならないのは、適用する税制優遇ごとの税率(申告分離課税or総合課税)です。
総合課税の税率が低い所得額なら、配当控除を適用すべきです。しかし所得額が一定ラインを越えている場合、配当控除を適用せず申告分離課税のままで確定申告したほうが、安い税額で済みます。
実際に総合課税の税率表を取得して比較してみると、下記表から「配当控除の適用がお得なのは課税所得額695万円まで」と言えます。
総合課税or申告分離課税の税率比較 | ||||
---|---|---|---|---|
課税所得額 | 総合課税の税率 | 申告分離課税の税率 | ||
税率 | 配当控除 | 計 | ||
195万円以下 | 5% | 10% | 0% | 一律 20.315% |
195万円超~330万円以下 | 10% | 0% | ||
330万円超~695万円以下 | 20% | 10% | ||
695万円超~900万円以下 | 23% | 13% | ||
900万円超~1,000万円以下 | 33% | 23% | ||
1,000万円超~1,800万円以下 | 33% | 5% | 28% | |
1,000万円超~4,000万円以下 | 40% | 35% | ||
4,000万円超 | 45% | 40% |
確定申告の方法で迷った場合は、まず給与等の他の収入と合算した「課税所得額」を把握しましょう。税率を比較したうえで、さらに配当控除と損益通算のどちらが適しているかチェックするために「投資益の内訳」にも気を配ることをおすすめします。
「総合課税+配当控除」の適用対象&向いている人
配当控除で優遇される金額は、公募株式投資信託の分配金の額に比例します。頻繁に売却指示を出してほとんど配当金が得られていない状況では、あまり節税効果は得られません。
税額を安くできる条件として、所得額以外に「1年以上の長期保有を前提として投資信託を運用していること」も挙げられます。
【配当控除が向いている人】
- 課税所得695万円以下の人
- 年内にほとんど売却指示を出していない人
- 高配当ファンドを中心に運用している人
適用条件:確定申告を行うこと・株式等投資信託の分配金があること
課税方法:総合課税(所得全体に対し5%~45%)
「申告分離課税+損益通算」の適用対象&向いている人
損失分を翌年に繰り越す場合、翌年以降も必ず確定申告しなければならないのが面倒です。
その代わり、納税による損失拡大・運用資金不足はしっかりと防ぐことが出来ます。一律税率であるため高所得者ほど節税効果も上がり、ある程度投資に慣れてきた人や収入が増えている人に適しています。
【損益通算が向いている人】
- 課税所得695万円超の人
- 手間をかけてでも実質利回りを高めたい人
- 年内の損失が大きかった人
- 頻繁に売買指示を出したり、複数の証券口座で掛け持ち運用したりする投資スタイルの人
適用条件:確定申告を行うこと
課税方法:申告分離課税(投資益に対し一律20.315%)
【節税のコツ2】NISA制度を知る・使いこなす
NISA口座で運用すれば、年間運用額120万円の範囲で課税されません。運用の最長期間は5年間と定められていますが、期間終了後はロールオーバー(運用資産を持ち越して再度非課税制度を適用すること)が可能です。
通常のNISA・つみたてNISAの比較 | |||
---|---|---|---|
比較項目 | NISA | つみたてNISA | ジュニアNISA |
対象者 | 国内在住かつ20歳以上 | 国内在住かつ19歳以下 | |
非課税枠 | 120万円(最大600万円) | 40万円(最大800万円) | 80万円 |
非課税期間 | 5年間 | 20年間 | 5年間 |
口座開設期間 | 2023年まで | 2037年まで | 2037年まで |
ロールオーバー | 〇 | × | 〇 |
対象商品数
(投資信託) |
国内で販売を行う全銘柄(約3,000銘柄) | 約140銘柄 | 国内で販売を行う全銘柄(約3,000銘柄) |
投資信託以外の対象商品
|
ETF(上場投資信託)
株式・REIT |
なし | ETF(上場投資信託)
株式・REIT |
※ジュニアNISA制度では、原則として親権者等が取引を行うものと定められています。
もっと少額でコツコツ積み立てたい人には、年間非課税枠を引き下げる代わりに運用期間を延長した「つみたてNISA制度」も用意されています。運用資産の選択肢の狭さがデメリットですが、金融庁から指定されている約140銘柄(一覧はこちら)はいずれも低リスクファンドばかりです。
「税対策だけでなくファンド選びにも悩まされずに済む」と考えれば、なるべく投資に手間をかけたくない人に向いていますよ。
【注意】NISA制度が適用できるのは1口座のみ
通常NISA・つみたてNISAの各制度は、どちらか一方しか利用できません。また、適用できるのは1口座のみです。複数の証券口座で非課税枠をもつことは出来ません。
これから投資信託を始めようとする人は、どちらの制度が自分に向いているか・どの証券会社でNISA口座を開くかをしっかり検討してから、口座開設の手続きに移りましょう。
NISA制度を活用して投資信託を運用できるおすすめの証券口座は、こちらの記事で紹介しています。
まとめ
投資信託では「分配金」「売却益」「償還益」の3つに課税されます。投資歴1年目の人は、他にも次のポイントを押さえておけば、複雑な税の仕組みをスッキリとシンプルに理解できますよ。
【税金の基礎知識】
- 投資信託の種類:公募株式投資信託・公社債投資信託の2種類。
- 投資信託の税率:原則として申告分離課税(一律315%)だが、公募株式投資信託の分配金に配当控除を適用する場合のみ総合課税(5%~45%)となる。
- 分配金の扱い:購入時価額を下回ってしまった部分は非課税になる
- 確定申告:原則は申告する必要があるが、手間を省きたい場合は「特定口座(源泉徴収なし)」を開設しておけばOK
税対策として、確定申告で「配当控除」または「損益通算」を活用すること・自分に合ったNISA制度を選ぶことの2点を心がけましょう。
課税の仕組みは、収入源の種類や所得額全体が増えるほど高度化します。投資初心者のうちに理解を進め、将来に備えましょう。
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